最近、術前診察などで患者さんから
「手術も大事だけど、実は麻酔も大事なんですってね。テレビで以前、やってました。」
「麻酔の方が怖いから、ちゃんと麻酔科の先生がいる所で手術しなきゃいけないんですよね。」
「私、いろいろ病気を持ってるから麻酔も大変でしょうけど、よろしくお願いします。」
などと言われることが増えてきたように思う。
こういう言葉を患者さんから聞くと私程度のキャリアでも、時代は変わったなぁ、と思わずにはいられない。
・・・・もう10年も前になる。
当時、小児科研修医だった私は、気まずい思いを抑えてやっと、あるオーベンに「来年から麻酔科に転科する」ことを伝えた。まったく予想していたなかったオーベンは、ずいぶんと驚いて残念がってくれたものだが、その時に次のような事を言われた。
「小児科から他の科に変わるのはいい。でも、なぜ、麻酔科だ?
あんな、患者さんに感謝されない科はないだろ?
患者さんが退院する時に感謝するのは、外科医に対してだけだ。
僕たちが働いているのは、感謝されたいからが全てではないけど、それは大きな原動力だ。
感謝が素通りしてしまう科で、その後、ずっと、働いていけるのか?」
・・・そんなアドバイスにも耳を貸さず(苦笑)、麻酔科として働きだしたわけだが、当時の私の実感はやはり 「感謝の素通り」 だった。患者さんのところへ回診に行っても「医師」とは認識してもらえず技師か看護師と間違えられていたりしていた。麻酔管理は(どんなに苦労しても)うまくいって当たり前、クローズアップされるのはなにかトラブルがあった時だけ。
「患者さんが麻酔科医の働きを認識したということは何かトラブルがあったということ。
一番いい麻酔は、患者さんに覚えてもらわず何事もなかったようにすること。」
指導医の言うことはもっともであったが、それはそれで正直、やりきれない気持ちを抱えながら働いていたように思う。
その後、麻酔科医がドラマや本で取り上げられたり、麻酔科学会の啓蒙活動などが根気強く続けられたことが、やはり功を奏しているのだろう。明らかに、患者さんの「麻酔」に対する理解が少しづつではあるが深まっているように思う。
それは、最初に挙げた患者さんとの診察時の会話でもわかる。
また術後に、単純に「ありがとうございました」と言ってもらうこと自体、以前よりも増えたのではないだろうか。
感謝されたいからが全てではもちろんないですが・・・・
最近の「ありがとう」と言ってもらえる傾向は、素直にうれしいと思う今日この頃です。