私はHeart Saving Project(以下HSP)というNPO法人の治療チームの一員として、モンゴルでの小児先天性心疾患のカテーテル治療に参加しています。母校である島根医科大学(現 島根大学医学部)の小児循環器の先生が立ち上げたプロジェクトで、学生、研修医、麻酔科医として2回の計4回同行させていただきました。その時々で自分にできることは異なりますが、その時の自分の目で見、心で感じ、毎回異なった経験を得て帰ることができます。
モンゴルというと、ひたすら広い草原に白くて丸い移動式のテント、というイメージを持たれる方がほとんどと思いますが、首都のウランバートルはビルの立ち並ぶ都市で、私たちの医療活動も立派な建物の病院内で行われます。1週間の滞在のうち4日半で35名程度の治療にあたるので、1日7~8名のカテーテル治療の麻酔に携わることになります。日本と大きく違うのは、まず初日に、麻酔のための物品を揃えるところから始めなければならないところです。言葉も十分には通じず、薬品や物品も微妙に異なりますので、自分に必要なものを現地のスタッフの方に必死に伝えてひとつづつ揃えていく必要があります。渡航を重ねるごとにコミュニケーションもスムーズになって、最近では現地の病院側が事前に物品を揃えてくれるようになってきています。薬品はほとんど同じですが、ロシア語表記だったりするので看護師さんに確認します。普段、大学病院で麻酔をするときには、薬剤師さんやMEさんが必要物品・薬品を用意してくれるのが当たり前のようになっていますが、いかに普段の業務環境が恵まれているかということに改めて気づきました。
準備が整ってしまえば、あとは毎朝9時ごろから最初の患者さんのカテが始まります。2~3名の麻酔科医で、1日7~8例の麻酔を自転車操業のように行っていきます。1人が終ればストレッチャーに移し、部屋の隅で覚醒させている間に次の患者さんの導入が始まります。治療が終った頃には21時ごろとなりへとへとです。みんなでレストランへ移動し食事をとってホテルに戻るのは23時ごろになります。普段の日本での毎日とほぼ変わらないか、それよりきついくらいです。観光の時間もほとんどなく、最終日にちょっとお土産を買いに行くくらいです。しかし、最終日、今回の渡航で元気になった子供たちと家族が集まって「ありがとう」といってくれるのを見ると何とも言えない充実感に満たされます。日本では麻酔科医は縁の下の力持ち、表に出ることは少なく、直接患者さんから感謝される機会はめったにないので、直接感謝の気持ちを受け取れるというのは非常にモチベーションがアップします。小児科医の先生たちも言っていましたが、一度参加するとまた来たいなぁという気持ちになってしまう不思議な魅力があります。
現地ではモンゴルの人たちがボランティアとして、日本とモンゴルスタッフの間の通訳や、患者さんとのコミュニケーションの通訳をしてくださったり、去年治療を受けたお子さんのご家族が、治療スタッフのためのお弁当作りをしてくれることもあります。
このような活動は医局から斡旋されているわけではないので、自分の休暇を利用して渡航することになるのですが、自分が休んでいる間の業務をカバーしてもらえるだけの医局員数と上司の理解があってこそこのような個人的な活動を可能にしていると思いますので、自分の置かれた環境のありがたさに改めて気づきます。興味を持ってくれそうな後輩たちにも声をかけ、すでに何名かが経験してくれています。
興味のある方はぜひ仲間に加わってください。今まで見えなかったものが見えてくるかもしれません。HSPでは渡航ごとに若干名の麻酔科医を募集しています。単発でもリピーターでも可能です。